ロワール地方
フランスの中央部から大西洋まで、約1,000kmを流れるロワール河。その流域は古くから「フランスの庭」と呼ばれ、美しい城とバラエティーに富んだワインを産することで有名である。
シノン地区は、東西に長いロワール地方のほぼ真中に位置している。石灰質の多い土壌で、山の斜面には洞窟が多く、中にはその洞窟を倉庫として利用したり、現代風にアレンジして住居にしている人もいるという。 ドメーヌ・フィリップ・アリエは、シノン地区の中でも特に葡萄栽培に好適なクラヴァン村にある。
総畑面積:17ha
平均樹齢:30年
植え付け密度:5,000本/ha
総ワイン生産量:60,000本/年
剪定方式:ギュイヨ・サンプル方式
AOC Chinon (AOC シノン)
Chenin Blanc (シュナン・ブラン) 5%
Cabernet Franc (カベルネ・フラン) 95%
海洋性気候と大陸性気候の影響を受ける、温暖な気候。葡萄畑はロワール河とその支流ヴィエンヌ川に挟まれた斜面上にあり、ぶどう栽培に最適なミクロクリマに恵まれている。
砂と小石土壌の「クラヴァン・レ・コトー地区」に9ha、南向きの斜面で粘土石灰質土壌の「コトー・ド・ノワレ地区」に3ha、ケイ質土壌で鉱物を豊富に含む土壌の「リュイスリー」に3haを所有している。
「リュット・レゾネ(減農薬農法)」と呼ばれる栽培方法を基本に、除草剤や殺虫剤などは一切使わない自然農法を実践。もちろん畑は全て自分の手で耕し、表面で横方向に伸びる根を刈ることで、主要な根が地中深くに伸びていくように整えている。1本の木に残す芽は5~6個で、それ以外の芽は摘んでしまう。収穫量は極端に落ちるが、ワインの凝縮度を高めるためには欠かせない作業である。こうして、最終的に1株から採れる葡萄は8~10房。シノンの他の生産者が20房ほど作り、AOCでも55ha/haの収穫量が認められているのに対して、ここでは35hl/haと、驚異的な少なさである。
すべて手摘みで収穫。収穫人には、完熟した葡萄だけを選果するよう、厳しく指導。運搬にも小さな箱を用い、葡萄の重みで粒がつぶれないよう気をつけている。
収穫時にSO2(亜硫酸)は添加しない。乳酸醗酵後と瓶詰め前に極少量(1~2mg/L)を添加するだけ。醗酵時にも酵母は添加せず、天然酵母の活動により、自然に醗酵が始まる。
アルコール醗酵は、特注サイズのステンレスタンクか昔ながらのセメントタンクのいずれかで行う。その後、トラディションはステンレスタンク、その他のキュヴェは樽で熟成させる。この樽も、以前はCh.マルゴーとCh.ラトゥールから買ったものを使っていたが、現在は自社で選んだ樽を使い、新樽はコトー・ド・ノワレに、その後の樽をV.V.用に使っている。リュイスリーはドゥミ・ミュイという大きめの樽で熟成。
オーナーのフィリップ・アリエ氏は1978年から祖父を手伝ってAOCシノン、クラヴァン・レ・コトー地区のドメーヌで栽培・醸造を始め、1985年に後を継いだ。父親はブドウ栽培を行わなかったため、彼で二代目となる。早速彼は高品質なワインを目指し、栽培改善に着手した。まず、除草剤などの化学物質の撒布を一切やめて自然農法に切り替えた。そして収穫量を抑えるために厳しい剪定を行なったり、葡萄の生育中にも芽かきや摘芯をして、旨味がぎゅっと凝縮された葡萄を育てようと、コツコツと丹念な農作業を続けた。この頃、1年に2、3回ずつボルドーのグラン・クリュ畑を見て回った。当時ブルゴーニュのワインは、白ワインには優れたものが多かったが、赤ワインの樽熟成となると、ボルドーの方が技術が進んでいたからだった。こうして高度な熟成技術を見習い、より構成のしっかりしたワインを造ろうと試みた。幾度も失敗を繰り返したが、徐々に収穫量を減らしながら根気強く挑戦を続け、1993年、ついに樽熟成に耐えうるワインができた。また1996年には、念願の“コトー・ド・ノワレ”3haの栽培権を手に入れた。1haは葡萄が植わっていたが手入れされておらず、2haは放棄されていた土地。なぜなら40度という急斜面のため、作業が難しすぎて誰も手を付けられなかったからである。しかし南向きで粘土石灰質という土壌はフィリップ氏にとっては最高のテロワールであり、素晴らしいワインができるという確信があった。周囲の人に奇怪に思われながらも奥さんと2人で整備を進め、荒地だった2haにも96年と98年の二度に分けて植え付けを行い、徐々に改良していったのである。その甲斐あって、今や世界中から高評価を受けるワインとなっている。
2001年には、また別の土壌の“リュイスリー”3haの栽培権を取得。ここには小麦が植わっていたが、その土質と真南向きという条件から、“コトー・ド・ノワレ”をさらに上回る可能性を感じ、2001年に葡萄の樹の植え付けを行った。そして今日、まだまだ樹齢が低いにも関わらず、ミネラル豊富なテロワールとフィリップ氏の小まめで熱心な畑仕事のおかげで、すでに素晴らしいワインを生み出している。赤ワインの産地としてフランスで最北の地域にありながら、カベルネ・フランを100%使用した、熟したピュアな果実味を持った見事なワインを生み出している。野菜っぽさなどみじんも感じさせない豊かな果実味、緻密さは他に類を見ない域に達していると言っても過言ではない。
フィリップ・アリエ氏は誰もが認めるシノンで№1の生産者で、驚くようなきめの細かい繊細なワインを毎年造り上げている。 カベルネ・フラン100%で造られる果実味あふれるワインには定評があり、ロバート・パーカーJr.も、以前はシノンを評価しなかったが、この醸造元の95年を飲んでからシノンが好きになったとか。また、ジャンシス・ロビンソン女史も、ブラインド・テイスティングでトラディションを飲み、「ボルドーのかなり上級のもの」と評価した。
「レ・ジョン・ド・メチエ」に所属。このグループはピュイィ・フュメのディディエ・ダグノー氏が立ち上げたもので、テロワールやブドウを尊重するという理念の下、1つのアペラシオンから1人のワイン生産者だけが集まり、情熱や哲学を共有するもの。現在会員は約30名で、ソミュール・シャンピニーのフコ氏、クローズ・エルミタージュのアラン・グライヨ氏など、錚々たるメンバーと共に、フィリップ・アリエ氏はシノンを代表する素晴らしい造り手として推薦され、会員となっている。
★フランスのワイン専門誌「ラ・ルヴュ・デュ・ヴァン・ド・フランス 2003年4月号」でシノン地区トップの評価を獲得
★フランスのワイン専門誌「ラ・ルヴュ・デュ・ヴァン・ド・フランス 2002年3月号」で特集が組まれる。又シノン地区の生産者を対象としたテイスティングで「ヴィエイユ・ヴィーニュ’00/’99」や「コトー・ド・ノワレ\'99」が見事五ツ星の評価を獲得
★同誌「ラ・ルヴュ・デュ・ヴァン・ド・フランス 2009年9月号」で、再び特集が組まれ、“カベルネ・フランの調教師”と称えられる。
★ワインファンに定評のあるガイドブック「フランス最高ワインガイド(旧クラスマン)」で毎年必ず高評価を獲得
★名だたる有名レストランでサービスされている(プラザ・アテネ、ジョルジュVなど)。ボルドーやブルゴーニュ地方のワインと違い、グラン・クリュのような格付けがないロワールワインとしては、特別な扱いと言える。