Domaine de la Senechaliere ドメーヌ・ド・ラ・セネシャリエール

 

Marc PESNOT(マルク・ペノ)写真中央

 古谷 遼友(ふるや りょうすけ)写真右

 

所在地

ロワール地方

フランスの北西部を流れるロワール河の下流、ナントという街の周辺に位置する。ロワール河の支流である「セーヴル川」と「メーヌ川」が合流する流域の産地で、「Muscadet de Sèvre-et-Maine sur Lie(ミュスカデ・ド・セーヴル・エ・メーヌ・シュール・リー)」というように、河川名がAOCに使われている。

 

総畑面積:18ha

植え付け密度:7,000本/ha

選定方法:ギュイヨ・サンプル

 

原産地呼称

Vin de Table (ヴァン・ド・ターブル)

品種構成

14.72ha:Musucadet(ミュスカデ)《=Melon de Bourgogne(ムロン・ド・ブルゴーニュ)》
3ha   :Gros Plant (グロ・プラン)《=Folle Blanche(フォル・ブランシュ)》
0.28ha  :Abouriou (アブリュー)
Chardonnay(シャルドネ)

気候

大西洋の影響を受ける海洋性気候で、冬の寒さは穏やか、夏は乾燥した気候。
ミュスカデ地区は北にロワール河、南にセーヴル川とメーヌ川が流れており、この地区特有の気流によって雷雨が発生しにくいミクロクリマ(微気候)となっている。

土壌

砂利や岩が多く、片板岩(シスト)を含んだ土壌。フランスは大部分が石灰質土壌であるのに対し、このシスト土壌は非常に珍しい。ここで育つブドウは、ミネラル豊富で酸味の強いワインになる。
0.5haの畑でぶどう一株一株の回りに牡蠣の貝殻を粉末状にしたものを撒き、土地のエネルギーを高めるという、ペノ氏独自の試みを行なっている。
目的は以下である。
 ①土壌の酸度を下げて地中の栄養分の吸収を促進させる
 ②白い粉末による日差しの反射を生かした日照量の増大及び表土の温度上昇による熟成度のアップ
 ③ビオディナミの方法に見られるイラクサやヒレハリソウの煎じ薬を噴霧するのと同じ目的で、牡蠣の貝殻の粉末が土壌のエネルギーを強くする など…
海底でワインを熟成させたこともあるペノ氏は、飽くなき挑戦を日々続けている。

栽培

雨の多い産地という非常に難しい条件の中、農薬や化学肥料を一切使わない有機栽培を実践し、畑の微生物を死滅させることなく、生命力のある生きた土壌を保っている。(エコセール申請中)その土壌にしっかり根を張った樹齢の古い樹を非常に大切にしており、その根が地中深くから吸い上げてくるミネラルや養分を、1つ1つの粒に出来る限り凝縮させるため、収穫量を極端に落としている。
またペノ氏は、失われつつある品種「アブリュー」を使って、驚くばかりの上質な赤ワインを造っている。

収穫

ミュスカデ地区では採算の都合上、90%の蔵が機械摘みする中、ここでは健全な果実のみを選び、すべて手摘みで行う。
その上、株や房によって熟度に差がある年には2度に分けて収穫するという徹底ぶり。
また運搬には小さな箱を用い、ぶどうの重みで粒がつぶれないよう気を遣っている。
収穫時にSO2(亜硫酸)は添加しない。培養酵母も添加せず、天然酵母の活動により、自然に醗酵が始まる。

歴史

ペノ家は1890年頃からこの地でワインを代々造り続けてきた。マルク・ペノ氏は、1980年からである。当時は通常通りAOCミュスカデを生産していた。始めてまだ間もない頃、仲間の生産者たちと一緒に、世界中の白ワインとミュスカデのワインを目隠しで飲み比べた。結果、自分たちの造るミュスカデの評価が最も低く、その味わいの酸っぱさ、薄っぺらさに驚愕した。しかしペノ氏はこう思った。「この地で世界一美味しい白ワインを造ってやろう!」と。ここからペノ氏の挑戦が始まった。
当時ソムリエをしていた弟を介して、多くの生産者たちと出会った。中でもペノ氏に感銘を与えたのは、自然派ワインの先駆者たちであった。彼らから多くを学び、また自分でも実験と失敗を繰り返しながら独自の製法を開発し、自然なぶどうの旨味がたっぷり感じられるワインを造るようになっていった。
その一方で、一般的なAOCミュスカデのワインとの違いは年々大きくなり、やがて官能検査で「ミュスカデらしくない」と判断されるようになった。旨味があり過ぎるのだ。それ以来ペノ氏はAOCを捨て、Vin de Table(テーブルワイン)というカテゴリーで、本物のワイン造りを行っている。

醸造

独自の醸造法:「ニュイタージュ」の紹介
ペノ氏は、「ワインのオートクチュール」と呼んでいるセネシャリエール独特の醸造方法「ニュイタージュ」により、品種の個性を生かした香り高く豊かなコクのあるミュスカデ造りを目指している。
ナント地区ではまだ誰も取り組んでいない「ニュイタージュ」は、醸造を始めると夜中も醗酵槽につきっきりとなる大変な重労働(「ニュイタージュ」はフランス語の「ニュイ(=夜中)」からペノ氏が造った言葉)で、ワイン造りに全力を尽くすペノ氏だからできる、今後が注目される方法である。
ペノ氏は、良いワイン造りはまず丹念に、そして素早く厳選したぶどうが必要だと考え、果汁が空気に触れて香りを失わないよう、収穫したぶどうをプラスティックケースに入れて潰れないよう注意しながら運搬する。次に葡萄を除梗せずに丸ごと醗酵槽に入れ、ドライアイスを入れて温度を5℃位にする。温度は最終的に12℃前後に維持し、炭酸ガスによって空気との接触を遮断した状態を6~7時間保つ。するとぶどう粒の細胞内でゆっくりと還元的醗酵(酸素が無い条件の元で起こる醗酵、本人は「フェルマンタシオン・アロマティック」と命名)が始まる。
この処置をすることによって、
 1)葡萄皮の裏にあるポリフェノールが無理無く抽出され、香りと旨味が最大限に表現される
 2)低温でしか活動しない数種類の自然酵母が、短期間に入れ替わりで醗酵活動する
という効果が挙げられる。
6~7時間後、真夜中の3時頃に手作業にて(金属もポンプも使用せず)葡萄を取り出してプレスにかける。1回目と2回目のジュースのみをタンクに入れて20時間の清澄作用を行なう。次に醗酵槽に移して17~18℃で低温自然醗酵を行なう。この時酵母菌はすべて自然酵母のみで、亜硫酸も一切添加しない。腐敗果が混ざっていないからこそ、亜硫酸無添加で醸造ができるのである。

評価・プレス

★ワインガイドブック「ヴァン・エ・ヴィニョーブル・エ・ヴィニョロン」(エレボーレ社)にて高評価
★ワインファンに定評のある「ギィド・アシェット」にて高評価
※ペノ氏のワインの醗酵・熟成期間は長く、出展時期に間に合わないためコンクールには一切の出展なし